下顎埋伏智歯の矯正            English

下顎埋伏智歯は、咬合の価値がなく、また智歯周囲炎、齲蝕、歯周組織疾患などをひきおこすおそれがあるため、抜歯されることが多い。
 しかし、第二大臼歯を喪失した場合、埋伏歯が利用できれば、極めてその意義は大きい。
 今回、第二大臼歯を抜歯後、埋伏智歯をその位置に移動し、機能させた。

症例
患者は20才、女性。
術前の状態

右下の智歯は水平に埋伏し、一部が僅かに露出。右下第二大臼歯の歯冠の遠心2/3は崩壊。

智歯は、咬合平面に対し、約80゜近心傾斜(shillerの方法による)。
智歯の歯冠の遠心側1/3は咬合平面より高位にあり、下顎埋伏智歯の分類では、2級1位。

第二大臼歯の抜歯と埋伏智歯の開窓
第二大臼歯抜歯と同時に、智歯の歯肉を剥離し、咬合面の一部を覆っている骨を除去した。

歯肉の剥離に際し、上図の赤線で示すような切開線を入れた。
これは歯肉の整形によって、智歯の周囲と、第一大臼歯の遠心における付着歯肉を確保するためである。
左はメスの刃を上向きにして智歯の歯肉を切開しているところ。

特に智歯の遠心側は付着歯肉が不足ぎみなので、上図に示すように剥離した歯肉を遠心に翻転し、側方歯肉弁移動を行った。
さらに智歯の近心と、第一大臼歯の遠心で歯肉を縫合し、歯頚部に密着させた。
左は縫合後の状態

上左は手術後1週間、上右は手術後5ヵ月の状態。

智歯の移動

アップライト・スプリング
 022X016エルジロイブルー。ヘリカル・ループは縦巻き3回転、直径3mm
 基底部を智歯の咬合面にスーパーボンドで接着
エラスティック
 智歯の近心移動には、FMリングレットを使用


45゜下方へ曲げて整直の活性化。左図

整直が進み、咬合面が邪魔になったところで、頬面管に変える。
上左は3カ月後、上右は9カ月後の状態。舌側もリングレットで近心に牽引。
左は、1年後の状態。


上左は6週後、上中は14カ月後、上右は19カ月後のデンタルX線像。


上は動的治療開始後19カ月で装置を除去したところ

装置除去後8カ月で少し後戻り
保定装置を充分使用していなかった。その後、再移動と咬合調整を行っている。


上は装置除去後14年の状態。智歯周囲の付着歯肉も充分確保されている。

智歯移動の問題点

1.装置のためのスペースの狭小
  口腔前庭が狭く、咬合、頬粘膜に障害を与えやすい。

2.移動のためのワィヤー
  Beggは水平埋伏智歯にラウンドワィヤーを使用し、整直している。エッジワイズ法ではワィヤーが硬く、長い距離を移動するには不適であるという。
  本例では、0.016X0.022のエルジロイワィヤーを3重巻きのヘリカル・ループとして、最初は弱い力を作用させた。
  近心への長い距離の移動には、リングレットの弾力によった。

3.固定
  右下4,5,6番を固定としが、遠心移動がみられた。
  歯列にディスクレパンシーのない場合は、固定の増加、加強、矯正力の減力など様々な方策をとらなければならない。

4.後戻り
  本症例では、智歯の遠心への後戻りがみられ、再治療を行った。
  移動後の安定をはかるには、充分な整直と、より長い保定が必要である。
  更に、咬合面形態の調整、つまり智歯の中心窩における3点接触保持の形態付与が必須である。

5.付着歯肉の重要性
  下顎智歯は口腔前庭を欠如することが多く、付着歯肉も殆どみられないことがあり、プラークガ溜りやすく、炎症が波及しやすい。
  本例では、智歯の開窓時、付着歯肉の増大をはかった。移動後、14年の経過でも充分な付着歯肉を保持することができた。

おわりに

 20才、女性の右下第二大臼歯抜歯後、右下智歯をその位置に移動し、機能させた。
矯正前に側方歯肉弁移動を行い、14年の経過でも健全な歯肉を保持する事ができた。

挿図の製作にあたった衛生士・稲田メリイに感謝する。
詳細は、参考文献の3)を参照されたい。

参考文献

1) Shiller,D.M. : Positional changes in mesio-angular impacted mandibular third molars during a year. JADA. 99:460-464,1979.
2) Begg,P.R. : Begg orthodontic theory and technique, W.B.Saunders Co., Philadelphia. 1965.
3) 竹腰洋三:下顎半埋伏智歯の矯正,日本歯科評論,481:54-64,1982.


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